Hotelier2002 [ Home | About... | Senses... | Beyond... ]


Chp 2
回復


ジニョンはゆっくり目を開けた。彼女は頭がとても重く感じ、身体全体がまるで力が抜けたかのように動くことができない。“何が起きたの?”彼女は右腕を持ち上げようとしたが、誰かの手に握られている。彼女は見下ろした。ドンヒョクがベットに頭をもたれかけて椅子に座っている。彼の両手は彼女の右腕を握っていて、まるで子供のように寝ている。めがねを掛けたまま。彼女は周囲を見渡した。“病院だわ、でもなぜ?”ジニョンは記憶を辿ろうとした。“ドンヒョクのメッセージ…ジェニーの新しいメニュー…救急車の音…そして私はベットに寝ている。”

彼女は何とか左腕を持ち上げ、ドンヒョクの髪に触った。“かわいそうに..彼はひどく疲れているんだわ。私の突然の病気で驚いたのね。彼の頬は少しこけ、不精ひげがある。彼にとってこの9ケ月間は非常に大変な時期であった。彼にとってはすべてが新しい環境、その環境に慣れることは容易ではない。ある大きな金融会社に就職し、彼は重役の一人だが、その会社の管理重役への報告業務も行っている…それは彼が今までしていなかった仕事ばかり。

何度も彼は疲れて家に帰って来て、仕事で自分の思い通りにならないことにイライラしていた。彼は今まで誰かの意見を聞くというよりむしろ自分の思い通りにやってきたが、この新しい環境では、すべてのことは重役たちの間において投票で決められ、最終決定は管理重役が行う。ジニョンは今まで全く知らなかった金融業界について結構詳しくなったことに彼女自身驚いている。それは彼女の愛する夫、理解あるパートナー、そして偉大なる友達であるドンヒョクのおかげ。彼ら夫婦は自分たちの考えを含め、すべてのことを共有し分かちあっている。彼は彼女に対し知っていることを伝えようとする。彼女の頭はレンガの壁のように鈍いけれど、彼は時々根気よくそうしている。

昔ジニョンがいたアパートに今ジェニーが住んでいるが、ちょうどそこから2ブロック離れた新しいアパートに私たちは引っ越した。ドンヒョクは夫婦だけの世界を持ちたがったし、ジェニーもすぐに彼女自身の世界をもつだろう。彼が言うようにジェニーは非常に独立心のある女の子だし、彼女はしばしば自分の新しい料理を試食してもらうために友達を招待したりしている。これに対し、夫婦のプライバシーは新婚時には重要である。

ジニョンはもっとも愛しい人の額に触れた。はっきり見えないがすこししわが出てきている。“私の愛しいドンヒョク、私を愛することはおそらくあなたの人生の中ですごく大変で疲れる道のりでしょうに。あなたは自分自身を変えるため、私と一緒にいるために大変な思いをしたわ。あなたはいつもこう言うの、「本当は変わったのではなく、むしろ本当の自分を発見したんだよ」って。”

ドンヒョクはジニョンの手が触れた感触で目が覚めた。彼は目を開け、ジニョンを見た。

彼女の美しい瞳が愛情を込めて彼を見ている。彼女の優しく触れる感触が彼の心を温かく包み込んだ。“神様、有難うございます。私の祈りを聞き入れ、寛容に対処して下さりました。”彼は彼女の手を握り、小さな手に優しくキスをした。ジニョンの指が優しく彼の顔を撫で、彼女の目には優しさが輝いていた。

「ジニョン、ジニョン、ごめんよ、本当にごめんよ。」ドンヒョクは目からほほに涙を流しながらささやいた。彼は彼女の手に頭をうずめた。ジニョンは自分の手が彼の温かい涙で濡れているのを感じた。

「ジニョン、なぜ僕はそんなにうかつだったのだろうか。そのせいで君がもっとも僕を必要としているときに君のそばにいることが出来きなかった。本当にごめんよ。」

ジニョンの涙が溢れでてきた。彼女は優しく言った。

「いいえ、ドンヒョク。あなたのせいじゃないわ。あなたは決してうかつなんかじゃない。あなたは世界で一番優しい旦那様よ。私の病気はあなたのせいじゃないのよ、ダーリン。」

「ちがうだ、ジニョン。」ドンヒョクは心から叫んだが言葉にならなかった。

“ジニョン、君はまだ知らないが、もしそのことを知ったら僕を許してくれる?”

彼は見上げると彼女の青白い顔はまだ非常に虚弱で、術後でまだかなり弱っている。

僕がどうして本当のことが言えるだろうか?いや、彼女はその事実に耐えることが出来ないだろう、私の心痛以上に。彼女は身体的にかなりの痛みを抱えている。

彼女は身体的にまだ辛いのに、その上彼女の心を痛める別の‘より深い痛み’を彼女に与えることなどどうしたら出来るだろうか。僕は出来ない。絶対そんなことは出来ない”

ジニョンは心配そうにドンヒョクの顔に手をあてた。彼の目はとても悲しそうで暗く、そして深い愛情、かなしみ、そして苦悩の気持ちで彼女をじっと見つめている。

彼女は優しく彼の顔を撫でた。彼女の声はまだ弱々しいが彼女の目は愛情に満ちていた。

「大丈夫よ、ドンヒョク。私は今大丈夫よ、ダーリン。すぐに普通の状態に戻れるわ。

心配しないで、私はゆっくり休養して、いっぱい食べるから2、3週間で普通に戻れるわ。ドンヒョク、大丈夫よ、すべて大丈夫よ」

ドンヒョクはベットの上に座り直し、彼女を腕のなかに引き寄せ、そして固く抱きしめた。彼の髪をやさしく通り抜ける彼女の指が彼を落ち着かせ、彼女の愛情あふれる言葉は苦しんでいる子供を慰める母親のように聞こえた。“子供?”彼はより固く彼女を抱きしめ、彼女の肩に顔をうずめた。涙が再び流れ出した…

“僕たちの子供…君の存在を知る前に君は私たちを残して逝ってしまった。”初めてドンヒョクは“父親”になるということを感じたが不幸なことそれは一瞬で終わってしまった。母親になるはずだったジニョンは彼女のお腹に宿った命を奪い取られるという

“より深い傷”でもっともっと辛いも思いをするだろう。男として、母親の愛情がどんなに深いものか理解することはできない。しかし、一つ確かなことは君は子供を失ったということでひどく傷つくだろう。僕は君が苦しんでいるのを見ることに耐えられない。ジニョン、僕の最愛のジニョン、君に出会ってから僕の人生で望むすべてのことは君を愛し、守り、そして君を幸せにすることなんだ。しかし僕はこれまでに何かしただろうか?君が僕にしてくれたこと、僕に君の愛情を注いでくれて、僕の人生をすばらしいものにしてくれたことに比べれば、僕はまだなにもしていない。君と一緒の人生は本当に最高ですばらしいので、僕はある日突然、それを失うのではないかという恐れを抑えることができなくなるんだ。この幸せは永遠なのだろうか?何度も心身ともに疲れきって仕事から家に帰ってくると、君は僕を腕の中に抱き締め、僕を慰めてくれる。君は僕の人生に平和と幸せを運んできてくれたんだよ。その時君の腕の中に永遠にいたいと思っているんだよ。ジニョン…ジニョン”

ジニョンはドンヒョクの反応に少し驚いた。それはちょっとした手術のはずなのに、彼は何か大袈裟だわ…それ程深刻なものだったの?私が受けたのは何の手術?また盲腸じゃないよね?ジニョンはちょっと身体を動かし、ドンヒョクの顔を見た。彼は彼女の顔に彼の手を当て、優しく労わった。

「ジニョン、僕は君の健康が回復するように全力をつくすよ。僕たちは休暇を取って、誰にも邪魔されないところで、二人だけで過ごそう。邪魔するものやストレスや他になにもない状態で。それは本当のハネムーンだよ。僕たちは仕事のせいでハネムーンを楽しめなかったからね。」

「でもあなたはJB・WERE社での新しい仕事が軌道に乗ってきたところだって言ってなかったっけ?休暇なんて無理よ。ドンヒョク、私は大丈夫よ。ほんの小さい手術だったし、その手術はもしかしてまた盲腸炎だったの?」

ドンヒョクは頭を振った。“ジニョン、ああ、ジニョン”彼は優しく言った。

「愛するジニョン、僕の仕事は心配しなくて大丈夫だよ。僕は昨日大きな仕事の契約を取ったんだ。会社は僕のおかげで満足している。だから僕は君と一緒にいるために休暇をとることができるよ。ゆっくり休養し、回復するんだ。そして本当のハネムーンをどこにいくか考えよう。」

彼は彼女の後の質問に対して答えるのを避けた。ジニョンは手術のことを考えていたがその詳細を説明する必要がなくなった。

ジニョンの心配は飛んで行ってしまったようだ。“休暇…本当のハネムーン?私たちは結婚式のあと一週間だけ休暇を取り、ドンヒョクの仕事の都合でハネムーンをアメリカ東海岸で過ごした。ドンヒョクは“ミニハネムーン”と呼んでいる、かなり短い期間ではあったけど、笑いと幸せで溢れていた。彼は信じられないくらい陽気だった。彼女が彼の中にある少年のような魅力を引き出したのだ。東海岸にはすてきな5つ星ホテルはなかったけれども、賃貸の手ごろな海辺の家はまさに私たちが求めていたものだった。カジュアルな服装で、外の世界から離れてすごし、私たちは自分たちだけの世界を作り出していた。日の出から日没まで、多くの数え切れない甘いひととき、隠れん坊のなどのゲームでのたくさんの楽しみと笑い。あなたが私に水泳を教えてくれた時のこと。私は練習時にたくさん水を飲んでしまい、結局何とかもっとも基本的なスタイルでやっと泳ぐことが出来た。

海辺の家にある小さいキッチンは私たちのように料理ができない人のための遊び場になっていた。(だって料理の作り方がわからないし、まるで子供のようにキッチンを散らかして遊んだ)。食べ物があちこちに散らかり、私たちの服などキッチンのいすも非常に散らかっていたので私たちは最後にはキッチンで食事をしたの。ダイニングテーブルや居間などを一晩中かけて掃除するのを恐れて….

私たちはこの地で手をつないで座り、海を眺めながら多くの心温まる静かなひと時を過ごした。そしてあなたは自分の過去の戦いや孤独、他の裕福な学生に比べ、最初にハーバード大学の門に立った時の十代の頃の野心を私に話してくれた。私はあなたを、そしてあなたの人生を知り、理解すればするほど、私はあなたを愛し、抱きしめたくなるの。私はあなたにそのようなつらい日々はすでに終わったことを知ってほしいの。だってあなたには私がいて、私にはあなたがいる、私たちはお互い二人でひとつなの。それは完全なものなのよ。

東海岸でのミニハネムーンの美しい思い出が、まるで昨日のようにジニョンの心に甦ってきた。一週間というとても短いものだったけれど、その時その時がとても大切で

忘れがたいものだった。ジニョンはドンヒョクを見て微笑んだ。その美しい笑顔が彼女の青白い顔を明るくした。

「ドンヒョク、高価な旅行は必要ないわ。どこであろうと、私たちが一緒に過ごすことができればいいのよ。私たちが本当に必要なものはお互いだけなんだから。」

彼女の笑顔でドンヒョクの心臓の鼓動が止まりそうになった。ジニョン、君との出会いは僕の今までの人生の中で最も最高で、もっともすばらしいことなんだ。手術で大変弱っていても、君は僕を慰める力をもっているし、僕が求めている心のぬくもりを僕に運んできてくれる。彼は指で彼女の髪をとかしながら優しく言った。

「ジニョン、休養して健康を取り戻そう。僕はどんなことでもするよ。

僕のために健康で幸せそうなジニョンになってくれ。僕は君をすてきなところに連れて行くつもりなんだ。そこは電話もなく、テレビもなく、外の世界とはコンタクトがとれないところだ。僕と君とすばらしい自然環境だけなんだよ。どうだい?」

ジニョンは再び微笑んだ。“いいわ、ドンヒョク、私の最愛のひと。”彼女は陽気に彼の手を取り、指を広げ、彼女の手のひらを彼の手のひらに沿ってこすりあわせた。

ジーーイ。

「はい、シン氏、契約完了。契約書は合意され、コピーされました。」

ドンヒョクは涙ぐんだ目で微笑んだ。彼の人生の中でもっとも長い一日の後やっと出た最初の微笑み。彼はほっとして、深呼吸し、息を吐き出した。彼は彼女を再び腕の中に抱き、しっかりと抱きしめ、彼女の耳に囁いた。

「君はほんとうにすてきだ!ジニョン、愛してる、心から愛してる」

ドクターがジニョンを診察した後、とても満足そうだった。看護婦がジニョンに注射をうっている間、ドンヒョクは病室を出て行くドクターについて行き、ジニョンの容態について詳しくたずねた。年配のドクターは、ぶ厚いめがね越しにドンヒョクを見た。

「シン婦人がかなりよくなってうれしいです。でもあなたは奥さんに手術の詳細についてまだ話してないのではありませんか?」

「そうです、ドクター。彼女がそのことを受け入れられないのではないか不安なのです。

彼女がもうすこし回復してから彼女に知らせるようかと思っているのです。」

ドンヒョクはドクターが自分に支持してくれるのを期待して答えた。

「シン氏、あなたが彼女にとって一番いい状況を望んでいるのはわかります。私は数年間、心理学、とりわけ、出産後の精神不安定について研究していました。それゆえ、このようなケースをかなり良く理解しています。あなたはあなた自身で彼女に知らせる必要があります。子供をなくした彼女の悲しみを慰めようとする必要があります。もし彼女があなたからではなく、他の誰かから、そのことを知ることになったら事態はもっと悪くなりますよ。」

ドンヒョクはドクターにお礼を言って、お辞儀をした。彼らが出て行った後、ドンヒョクは、自分はまったく何もわかっていないことに気づいた。重要なことはジニョンの幸せに関わることなのだ。

僕は過去において、まるで自分には明日がないかのように多くの戦いをしてきた。

しかし、ジニョンが一緒だとなると話はまったくちがう。ミスがないか確認しないといけないし、必ず勝たなくてはいけない。以前、僕は頼る人も頼られる人もいなかったので、負けると考えてしまうと、本当に自分自身が負けてしまうので、ゲームの結果は最悪だった。しかし、今は違う。今度の闘いは、私が乗り越えなくてはいけないもっとも困難な闘いの一つなのかもしれない。僕に悲しみをもたらし、ジニョンをも、もうすぐ悲嘆にさせる目に見えない恐怖を相手に戦うのだが、辛いことは僕が彼女にこの悲しい知らせを伝えなければならないということなんだ。僕がこの戦いに加わるということは、僕のもっとも大切な人をその戦いに引きずり込むことになる。でもそうなっても僕は彼女と僕自身をその残酷な敵から助けるために立ち向かうだろう。

そのことを彼女に知らせなくてはいけない。早ければ早いほうがいい。なぜなら、ジニョンはもうすぐわかることだろうし、もし僕がいないときに、誰か他の人によって知ることになったら…彼はそのことを考える勇気はなかった。

看護婦が薬剤を投与し終わった後、その決心をして、ドンヒョクが病室に入ってきた。ジニョンは彼を見て微笑んだ。

「ドクターは私が順調に回復していると言っていたわよ。だから心配しないで、ドンヒョク。わたしはすぐに元気になるわ。」

看護婦は医療用ワゴンを外に押し出し、ドアを閉めた。ドンヒョクはベットの端に座り、彼女の額にかかった髪をさわり、丁寧にサイドに寄せた。彼は片方の手で彼女の顔に触れ、もう片方の手をまわし彼女の頬を優しくなでた。彼の目は彼女の目をじっと見つめ、そして彼は優しく、そして曇った声でゆっくり話した。

「ジニョン、僕の話をきいて。僕は君に知らせなくてはいけないことがあるんだ。

君がそれを聞いた後、僕をしっかり受け入れ、そして僕とそれを分かち合うために君の心を開いて欲しいんだ。それを聞いて君がどう思うかが重要なんじゃない。どうか君といっしょにそのことを分かち合わせてほしい。僕と語り合い、僕といっしょに泣いてほしい。それを一人で抱え込まないでくれ。僕たちは自分たちの考えや気持ちを含むすべてのことを分かち合っていこう。ジニョン、そのことを約束してくれるよね」

ジニョンはドンヒョクの感情と言葉にすこし動揺した。

“私はそんなに悪いの?たぶん、ドクターは私の病気について彼に言っているんだわ。そんなに深刻なの?”

しかし、彼の愛情に満ちた、悲しい目で見つめられ、彼女はうなずき、そして言った。

「わかったわ、ドンヒョク。私たちは一人だなんて言わないわ。私たちはどんなことでも分かち合うのよね。」

彼はうなずき、彼の目は彼女の顔をじっと見つめていた。彼はたいへん言いにくいことを言う前に、咳払いをしようとした。

「ジニョン、君が昨日受けた手術は盲腸炎じゃないんだ。君は妊娠5週目だったが、胎児が子宮のそとにいて、そこで成長したために、血液の流れをひどく圧迫したんだ。

それゆえ、君が意識を失ったとき、ドクターは胎児を取り出す手術をするより仕方なかったんだ。」

ジニョンの頬に涙がこぼれ落ちていくのを見て、ドンヒョクは話すのをやめた。

彼女は泣き声を出さないように片手で口をふさいでいた。彼女の身体は震えていた。

ドンヒョクはすぐに彼女を彼の腕に引き寄せ、彼女をしっかりと抱きしめた。彼の目にも涙が溢れていたが、彼は泣かないように努めた。

“僕が彼女のために強くならなくてはいけないんだ。”

彼は彼の肩の近くに彼女の頭を引き寄せ、そしてささやいた。

「泣いていいんだよ、ジニョン。思いっきり泣いていいんだよ」

ジニョンは彼のシャツの片方がびしょびしょになるくらい泣いた。

そしてついに彼女は、ひどく打ちひしがれた言葉を口にした。

「私の赤ちゃん、私たちの赤ちゃん…ドンヒョク、私たちの赤ちゃんが…」

ジニョンは泣き崩れた。“どうして私たちの赤ちゃんがそうならないといけないの?

私たちの最初の絆、私たちのすばらしい愛の証なのに。なぜ?なぜなの?私が何か悪いことでもしたの?

私はいつも働きすぎで、仕事に重点を置きすぎ、そして仕事のシフトやホテルの出来事によっていつも寝不足で、仕事の引継ぎのためによく食事を食べ損なっている。

私がそのように無頓着だからなの?結婚すると女性はいつか母親になるだろう。私はまだその準備が出来てなくて、私の子供、私たちの子供を守れなかったわ、ドンヒョク。

どうか許して。私の不注意を許して。ドンヒョク、あなたが私の手術の後、とても複雑で悲しそうにしていたのも無理はないわ。あなたは非常に心が痛んでいた上に、一人でそれを抱えていたのよね。そのときの悲しそうな表情や涙、そして私たちのかわいそうな子供に対する思いはきっと私と同じよ。”

ジニョンは泣きながらドンヒョクを見て、そして言った。

「ごめんなさい、ドンヒョク、私たちの赤ちゃん、守れなくて….ごめんなさい」

ドンヒョクの顔にも涙が流れ落ちた。彼はそれ以上涙を我慢することができなかった。

鋭いナイフが再び彼の心をえぐっていた。ゆっくりとした深い痛み。

彼はとてもきつく彼女を抱きしめた。彼女の心臓の鼓動が彼の心臓の鼓動と一体となった。彼らの心臓は赤ちゃんを亡くしたことを嘆くかのように一緒に鼓動していた。

「違うんだ、ジニョン。僕のせいなんだ。ごめんよ。僕は自分の仕事ではなく、君の健康にもっと注意を払わないといけなかったのに。君が妊娠していることも気がつくべきだった。ごめんよ。」

ドンヒョクの言葉がジニョンの涙や悲しみを吸い取っていた。ジニョンは彼を強く抱きしめ、彼の肩で静かに泣いた。今までこれほど、この時ほど、お互いの必要性を強く感じたことはなかった。彼らは子供を失った痛み、失った罪悪感、大切なものを失った後悔を“ふたりいっしょ”に感じた。そう、彼らは“共に”かわいそうな運命をもった子供の親になるという本当の意味を自分たちの人生において初めて感じ、そして噛み締めていた。

ドンヒョクは病院に設置されている電話で、ジェニーと話をした。

彼はジニョンの容態を話し、ジェニーはその回復がとても良好であることを聞いて喜んだ。ジェニーはシフトが変わる、たぶん3時ごろに行くといった。電話を切り時間を確認した。午前11時半。

ジニョンはたくさん泣き、疲れと薬が効いているためか1時間前から眠っている。

ドンヒョクは再び電話を持ち、管理重役のソン・フンウ氏に電話をした。彼は手短にジニョンが入院していること、数日会社を休むことを連絡した。彼は売店に行き、数枚のタオルやペットボトルの水、歯ブラシや歯磨き粉を買った。

顔を洗ってさっぱりした後、ちょうど昼食の時間になり、病院スタッフが患者の昼食を運んできた。ジニョンも薬を飲む時間だ。ドンヒョクは椅子に座り、ジニョンの寝顔を見た。彼女の頬は青白くかった。彼は彼女の青白い唇を指でなぞった。自分の心の中にちくちく刺すような痛みを感じた。

“僕は元気なジニョンになってもらうために全力をつくすよ。”

ジニョンは身体を動かし目が覚めた。彼は笑顔で彼女に微笑んだ。

「起きる時間だよ、ダーリン。まだおなかすいてない?」

ジニョンは座り、ドンヒョクとランチトレーを見た。

「ドンヒョク、私はどのくらい眠っていたの?」

「一時間半くらいかな。それは君にとって必要な睡眠だったんだよ。ちょうどランチを食べて、薬を飲む時間だ。」

ジニョンは指で髪をとかした。ドンヒョクはそれをみて言った。

「洗面所に新しいタオルとハブラシと歯磨き粉がある。手伝うからまず最初にさっぱりしよう。」

彼は彼女のウエストを抱え、ベットから降ろした。ジニョンは彼の腕につかまった。

「大丈夫、ドンヒョク。わたしに付いているチューブなどを持ちながらだから、少しぎこちないけど歩けるわ。」

ドンヒョクはジニョンの腰や点滴の間に付いているチューブを整えた。ジニョンの手を持ち、彼女を洗面台に連れていきながら点滴台を押し動かした。

ランチを食べ、薬を飲んだ後、ジニョンはベットに座り、ランチ台を病室の外に運びだしているドンヒョクを見た。彼は戻ってきて、ベットの端に座った。ジニョンは彼の顔に手をおいた。

「ドンヒョク、ランチを食べてきて。昨日から何も食べてないでしょう。」

ドンヒョクは頭を振った。君が元気なら僕も大丈夫だよ。彼は彼女の髪に、そして頬に触れた。

「僕はまだおなかがすいてないんだ。食べたくなったら階下で何か食べ物を買うよ。

ジニョン、一番重要なのは君が元気になることなんだ。君は早く回復するために指示通りに食べ、休養し、そして薬をのまないと。

そしてその後、僕たちは2週間たっぷりと本当のハネムーンに行くんだよ。ジニョン、僕たちはもう一度やり直しだ。僕は君を守り、君を健康にし、幸せにすることを約束するよ。僕たちはもっと幸せな家庭をつくろう。」

ドンヒョクの言葉を聞きながら、彼女の目に涙が溢れて出てきた。彼女は突然、“彼といっしょにいることほど大切なことはないと悟った。彼女にはいっしょにいることの出来る幸せな家族がある。彼女の今までの世界、そして今まで仕事に向けられていた情熱の矛先が変わった。彼女は彼の手を優しく握り、そして言った。

「わかったわ。そうしましょう。ドンヒョク、私は仕事量を減らし、時間をつくり、もっとよい奥さんになるよう、そして幸せな家庭を築くようにするわ」

ドンヒョクは彼女を腕にしっかり抱きしめた。そんな必要はないよ、ジニョン、君はすでに僕にとってこの上なく最高なんだよ。彼は手を彼女の顔におき、優しく彼女の顔をなでた。彼は愛情溢れる目で彼女の顔を見つめていた。ジニョンは静かに目を閉じた。

“彼の腕の中で心配することはなにもない。”

彼の指が彼女の唇のほうに行き、唇の曲線をなぞった。彼自身我慢できなくなり、彼女の唇に自分の唇を重ねた。かれらの人生でもっとも長い一日の後の、唇を離すことが出来ないほどの長いキスだった。彼らは再びお互いを見つめた。彼らはその長いキスに浸っていた。お互いの顔はまだ触れ合うほど近くにある。ドンヒョクが彼女の唇を見ると、

キスのせいで温まり、唇の色も淡いピンクからばら色のピンクに変わっていた。

彼の指が再び彼女の唇に触れ、彼は情熱的にささやいた。

「愛してるよ、ジニョン」

再び求めるように彼女の唇に重ね合わせようとした。

ドアをノックする音がして彼らはわれに返った。ジニョンは顔を赤らめて、少し身体を後ろに動かし、髪の毛を整えた。ドンヒョクはドアの方に行く前に、彼女の耳にささやいた。

「キスは薬よりよく効くんだね。君の顔色が以前のようによくなってるよ、ダーリン」

彼がからかうとジニョンの顔はさらにもっと赤くなった。

ドンヒョクがドアを開けると、そこにはジェニーとテジュンがいた。

ジェニーは花束を持ってジニョンの方に歩いていった。

「ジニョンお姉さん、気分はどう?大丈夫?」

「今はとてもいいわよ、ありがとうジェニー。あなたは3時まで来られないと思っていたわ」

「わたしの料理長が早めに帰してくれたのよ。キッチンのみんなもお姉さんにくれぐれも宜しくと言っていたわ。早くよくなってくれてうれしいわ、ジニョンお姉さん」

テジュンはジニョンを見て、そして言った。

「君は思っていたより良くなっているね。今は顔色も少し良くなっているよ。」

ドンヒョクがジニョンにウインクをしたので、ジニョンの顔は熱くなった。

彼女の顔色が良くなった本当理由を知っているのは彼らだけだった。

ジニョンはジェニーが花瓶に花を生けるのを見ながら、ドンヒョクを見て、そして言った。

「ドンヒョク、あなたはもうそろそろ何か食べないと。ジェニーが私のそばにいてくれるから食事に行ってきて」

テジュンが立ち上がり、ドンヒョクに言った。

「僕もまだランチを食べてないんだ。ドンヒョク、一緒に食べに行こうか?」

ドンヒョクはテジュンにうなずき、ジェニーに頼んだ。

「ジェニー、しばらくの間ここにいてくれる?僕はランチの後いろいろ取りに家に帰りたいんだ」

「お兄さん心配しないで、私はお兄さんが戻るまでジニョンお姉さんのそばにいるわ」

ドンヒョクはジニョンの方を向き彼女の髪を撫でながら言った。

「家からいろいろ君に取って来るよ。ゆっくり休養して、いいね?」

「ドンヒョク、髭を剃るのを忘れないで。今あなたはまるで逃亡者のようにワイルドに見えるのよ」

「わかりました。奥様」

彼はテジュンと出て行く前に彼女に優しく微笑んだ。


Author (in English) - Rene
Translator (Japanese) - Hirorin
Coordinator- Milomomo (aka lovemail)